2019年07月08日

いぼたろう

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先日、和楽器の製作をしている方とお話しをする機会があった。

「ところで、桐製の琴の塗装には何を使っているんですか?」
「『いぼたろう』です」
「あー、いぼたろう、ですか。はいはい」

...と返したものの、さぁーっぱりわからない。
イボイノシシの子供(うり坊)だろうか...。
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イボタ蝋(ろう)は、モクセイ科のイボタの木に寄生する、イボタカイガラムシの分泌物を精製した蝋。
古来からある高級艶出し剤で、家具・日用品・楽器のほか、敷居の滑り用などにも使われるそうです。

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通販でも入手可能で、固形タイプのものと、粉末タイプがあります。
固形・敷居滑り用の「丸徳イボタ」は77gで550円。粉末(粒状)タイプは100gで2160円。

そしてこのイボタ蝋と「うづくり」という道具を使う「浮造り(うづくり)磨き」なるものがあるらしい。また、またぁ未知の単語が...。

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もぉ我慢できない。衝動のおもむくまま、ウチからクルマで17分の桐専門製材所に突撃し、いくつかの桐材を入手しました。

ホームセンターでも桐材は売っていますが、あれは中国産で、冬目(固い部分)がないもの。
国産材も流通しているが、多いのはアメリカ東部産で、質も十分に良いそうです。
その昔、華僑が良い苗木を中国から持ち込んだとのこと。

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なお、製材所ではこういった茶色い、細かい粉末のイボタ蝋が使われていました。

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こんな杢(もく)の入った桐材もあるんですね。なんてステキ。

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持ち帰りの際に、小さめの端材を紙袋に入れてくださいました。
なんか、本場仕込みの高級フランスパンに見えなくもない。

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「うづくり」は通販サイトのモノタ蝋、じゃなかった、モノタロウで入手。
ナイロンブラシ+電動ドリルでも加工できるし、ドラムサンダーのようなうづくりマシンを使っている工場もあるようですが、今回はあえて手作業で、イボタ蝋を使いながらゴシゴシ。

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すると写真右上側、やわらかい夏目が削り落とされ、こんな仕上がりになる。渾身の力はいらない。

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軽く焼きを入れたあとにうづくり加工をすると、こんな具合。板目/柾目によって、風合いがかわります。

そんなわけで、ほんのちょっとだけ昔ながらの技法に触れてみた次第でした。
<以上:明日香弦楽器
posted by Satoshi Orisaka at 02:21| 製作

2019年06月11日

232FCクラシック

クラシックギタリストが主人公の平野啓一郎「マチネの終わりに」。
本をざっと目で追ったかぎりでは、「オレの愛器・〇〇!」的なプッシュはなく、たしか、スモールマンは合わなかった、フレタ、フレデリッシュは地震の時も無事だった、みたいな表記がわずかにあったような。(いいかげんな情報です。あしからず)

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11月公開の映画で使われているギターは現時点でモデル不明だが、最近公開された写真では松/スプルーストップっぽい。福山雅治ライブではアントニオ・マリン・モンテロ(杉トップ?)使用、との説も。去年の紅白で使っていたのがそれかも。
現時点の広告ではギターの露出はゼロ、とはいえ、まもなくクラシック/ナイロン弦ブームが来るかもという希望的観測が楽器業界にはあります。

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兵庫県川西市立東谷中学校の第2理科室から聴こえてきた音色にひかれてギタークラブに入部。中学2年でアコギをはじめつつ、以来、大学の部活でも熱心にクラシックギターに取り組んでいた、つもりですが、
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1987年頃の部活練習中の写真。チョケて、周囲の嘲笑を喰らってますねぇ...。

工房スタートにあたり、純クラシックの製作は考えていなかったものの、ヘッドは最初からエレガットに転用しやすいデザインにしていました。

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そして今年、「クラシックギター」らしい雰囲気を残しながら、アコ、エレキ奏者にとって弾きやすく、プラスアルファも盛り込んだエレガット「232FC "Classic"」を製作。

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ヘッドはもちろんスロッテッド。装飾は落ち着いた輝きの「黒蝶貝」をシンプルに入れました。
この上なく丁寧に木部の加工/調整をしたので、ペグの回転もきわめてスムースです。

ナイロン弦でも一般にネック反りは発生しうるので、アコ同様アジャストロッド+カーボン2本をネックに埋め込み、ヘッド側で調整できるようにしています。

ナット幅は47mm。1−6弦ピッチは38mm。
43mmくらいの方が個人的には好みなのですが、いろんな方に仮加工したものを試してもらった結果、細いのはかえってエレガットらしくないという意見が多かったのでした。

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トップ材はジャーマンスプルース。ブレーシングはダニエル・フレデリッシュのスタイルを少々取り入れた、クラシックらしいファンタイプ。
えらいもので、これによりトップ鳴りというか弦のレスポンスがしっかりクラシックギターのテイストになります。

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クラシックらしい外観/仕様は残す一方、400R指板に合わせて、ブリッジにもRがついている。
サドル側の弦ピッチはアコと同様、1-6弦で55mmです。

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5mm幅のベベルド・コンター、フローレンタインカッタウェイ、ボディサイド側ストラップピン、14フレット位置ジョイント、1弦のみ延長指板・24フレット、といった所が特徴。
ピックアップはL.R.バッグスのリリック。トップ鳴りを上手に拾っている印象です。

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塗装は通常のアコと同じポリウレタンを気持ち薄めに。シェラックやラッカーも検討しましたが、手入れがしやすく、どんな演奏環境でも安心して扱える点を重視しました。
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ともかくは演奏性や音も良い具合に仕上がり、「宿願」みたいなものが叶って私は結構満足しています。
これを基本としたカスタムもお受けいたしますので、気になる方はご検討ください。
<以上:明日香弦楽器
posted by Satoshi Orisaka at 23:35| 製作

2019年05月31日

横浜・文身歴史資料館

文身(ぶんしん)とは、刺青(しせい)、入れ墨、彫り物、タトゥーのこと。

・魏志倭人伝/後漢書東夷伝において、倭人は「男性は大人も子供も、みな顔や体に入れ墨をしている」とある。
・谷崎潤一郎のデビュー作「刺青」。ローリング・ストーンズの快作アルバム「刺青の男(TATTOO YOU)」。
・おしゃれ系ワンポイント単色タトゥーのデザインは、楽器インレイへの転用にとても向いている。
・男性の全身和彫り、女性の振袖/小袖など、肉体よりアートが優越する日本人の美意識。

そういえば私が30年前に行った自動車免許の合宿では、ルームメイトに全身ガッツリ和彫りをした人がいて、見るような見ないよう感じで2週間を過ごしました。

こういった興味から、ぜひ手書きの下絵など見てみたい。また絵柄の源流/元ネタなど探ってみたくなったわけです。

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横浜駅からほど近いビルの1階が文身歴史資料館で、2階は「三代目彫よし」仕事場となっている。

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すっごく狭いドアが入口。入ると「三代目彫よし」の奥様らしき方が「入館料1000円いりますけどいーですかぁ?」と丁寧に確認し、喜んで払うと記念のピンバッジをいただける。

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内部は一見、狭く雑然としているが、古今東西の資料が大量に網羅されている。その他関連工芸品、オブジェも。
驚いた!これはまさに「歴史資料館」だ!

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中国の史書のほか、土偶からも「倭人」と刺青の関係の深さを知ることができる。

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その後、儒教の伝来などにより刺青はすたれ、江戸時代になると入れ墨が刑罰として確立される。

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日本における刺青人気のきっかけとなるのが、1700年代の読本「本朝水滸伝」などによる「水滸伝」ブームで、さらに1827年発表の歌川国芳の錦絵「通俗水滸伝豪傑百八人」の爆発的ヒットにより、現代につづく「和彫り」のモチーフが確立する。

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108人の豪傑が登場する水滸伝最初の主人公は「九紋竜」入れ墨の「史進」。豪傑、アウトロー、義侠のイメージに、錦絵の華やかな入れ墨ががっちり一体化されたわけです。

和彫りのデザインには他にも不動明王、般若などがありますが、このように、図柄の源流は歌川国芳あたりの錦絵、と見てよいようです。
カラフルでグラデーション表現の美しい錦絵がお手本であるがゆえに、「ぼかし」という和彫りの特徴は表現上の必然とされる技法だったのでしょう。

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飛脚、大工、火消しなど、肉体露出系労働者に大流行。

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和彫りの下絵。

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こうなってくると、高倉健の唐獅子牡丹はむしろチャーミングに見えますね。
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アイヌ民族では刺青が習俗として定着していました。

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ポリネシアを中心とした南洋系の複雑な柄は、「トライバル・タトゥー」としてくくることができます。
ちなみに「タトゥー」の語源はタヒチ語の「TaTau(タタウ・叩く、の意)」です。

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エジソン発明・タトゥーマシンのレプリカ。アメリカのタトゥーは「オールドスクール」「アメリカン・トラディショナル」などと呼ばれる。ポパイも腕に入れてますよね。

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生身の本物を見たらさすがにしぼむが(何が?)、小説「刺青」にいう「光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む」のは印象的なシーンなのですねぇ。

刺青を文化的なものとして周知・認識させるため、執念を感じるほど熱心に蒐集された資料の数々。魂のこもった施設でした。
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打ち合わせに来ていた、既にいっぱい刺青を入れているザック・ワイルド似のメキシコ人から「お前もタトゥーを入れに来たのか?」と聞かれた。
いやボク、痛いのムリだしぃ、近くのスーパー銭湯に行けなくなるしぃ...。
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<以上>
posted by Satoshi Orisaka at 21:23| 日記